コラム
- 第2章 - 第1回 人間の進化と歯
奥歯と噛むことと脳は密接な関係があります
人間の進化について研究していて、「歯で噛む」ということが進化の大きなきっかけとなったのではないか?と思うようになった、とおっしゃっているのは、京都大学名誉教授大島清先生です。大島先生は、脳とホルモンの研究では世界的な権威者でありますが、歯科医師ではない方が、最近歯に着目されていることが多くなり、私自身非常に関心を持っています。実際この1~2年、新聞でも歯についてたくさん取り上げられるようになっています。傾向としては「老人と歯の問題」や「よく噛まない子の問題」などが多く取り上げられています。
たとえば、岐阜大学の実験で、ねずみの奥歯を取ると、学習ができなくなることが報告されています。奥歯を使ってよくかんでいると、脳の中の 海馬 という場所がよく働くことがわかりました。この海馬という場所は、 老人痴呆 になるとまずやられてしまうところなのだそうです。その大事な奥歯が乳歯から永久歯に生え変わるのは6歳~14歳ごろ。そして萌出後1、2年かけてどんどん硬くなっていき、丈夫な永久歯になっていくのです。
縄文時代の人の顔はエラの張った 四角い顔 をしていました。ところが現代人は 逆三角形 。あごの形がどんどん変わり、永久歯を保つ空間が少なく、上下の歯が正しくかみ合わなくなってきています。これでは学習のできない子が増えてくるのではないかと思われます。子どもが朝ごはんを食べないということも問題だと思います。
80歳でアルツハイマーになった人の歯数を調べると、 平均3本 でした。80歳で元気な人の歯数の 平均は9本 。
咀嚼(そしゃく)というのは脳を活性化し、精神性を高めます。噛むという運動は噛むことによってだ液が出て、噛んでいるものの味が出て、脳に情報が届きます。脳に届く運動量の 50%はあごからの情報です。 「辛酸苦渋」 といいますが、いろいろな味をあじわうことで精神的な人間形成、つまり「個性」というものも作られます。アメリカでは食品を清涼飲料で流し込むような食生活が広がったせいで、だ液の量が減り舌が乾いてしまうことで舌癌が増えたと言われています。「辛酸苦渋」というのは人生と同じです。手塩にかけた手づくりの味を味わい、人間的な吟味をおこなうことが大切です。
大島先生は、「人間は精神の漂泊の乞食(こつじき)である」という言葉が好きだとおっしゃっておられますが、人間は精神を高めるために食べ物を探して人生をさすらい歩くのだ、食べ物がなく飢えてしまうと餓鬼道に入ってしまうのだと考えているからだそうです。
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